2019年02月20日
民法改正:時効について
ご承知の方も多いかと存じますが、来年(2020年)4月1日、民法(債権法)が変わります。
今回は、消滅時効について、特に重要と思われるものを解説いたします。
1 消滅時効期間の原則
改正後の民法においては、債権の消滅時効期間における原則が、次の2つのパターンで規定されています。
① 「債権者が権利を行使することができることを知った時から」5年間(新民法第166条1項1号)。
② 「権利を行使することができる時から」10年間(新民法第166条1項2号)。
これらのうち、いずれか短い期間の経過をもって、消滅時効が完成します。
例:平成31年1月1日に権利を行使することができるようになった場合
① 債権者が平成35年1月1日に権利を行使することができることを知った場合
→平成40年1月1日の経過をもって消滅時効完成(1号が適用)
② 債権者が権利を行使することができることを知らない場合
→平成41年1月1日の経過をもって消滅時効完成(2号が適用)
また、商事消滅時効(商法第522条)の規定が削除され,商行為によって発生した債権の場合も、
新民法の規定が適用されます。
そして、現民法の短期消滅時効の規定も削除されます。短期消滅時効の例として、飲食店のツケ払い
(現民法第174条4号)、弁護士報酬(現民法第172条1項)等が挙げられますが、
これらについても上記原則と同じ消滅時効期間となります。
なお、改正後の懸念点として、「いつ債権者が権利を行使することができることを知ったのか」が
争いとなることが、容易に想定できることがあります。
例えば、次のような場合です。
① 「権利を行使することができる時」
→ 平成31年1月1日
② 「債権者が権利を行使することができることを知った時」
→ 平成34年1月1日
③ 請求日
→ 平成38年1月1日
このような場合、債権者としては、①から10年以内、②から5年以内のいずれも充足しているから、
消滅時効は完成していないと主張することとなります。
他方で、請求された債務者としては、「債権者が権利を行使することができることを知った時」は
①と同日であると主張した上で、①から5年を経過した時点で消滅時効が完成しているという反論を
することが考えられます。
どちらの主張が正しいかは、事案ごとに判断することにはなりますが、債権者が知っていたか否か
というのは主観的な問題となり、立証が困難であることも多いと思われます。
そのため、予防法務の観点からは、次のような取り扱いをすることが適切かと思われます。
① 原則として「権利を行使することができる時」を起算点にし、その時点から5年以内に請求する。
② 「権利を行使することができることを知った時」に、既に「権利を行使することができる時」から
5年以上経過していたような場合に限り、「権利を行使することができることを知った時」から
5年以内に、できるだけ速やかに請求する。
①の取り扱いについては、現在の商事消滅時効と同様となりますので、対応は比較的容易なのでは
ないでしょうか。
2 時効の進行を止める方法
現在の民法において、時効を止める方法は、「時効中断」と「時効停止」の2つが規定されています。
「時効中断」とは、ある事由が発生することによって、時効期間の進行がリセットされ、初めから
進行するものです。
「時効停止」とは、ある事由が発生している期間中、時効期間の進行が停止し、停止事由が消滅した後は、
続きから進行するものです。
これらの文言がわかりにくいという意見があったため、改正後は、次のように文言が変更されます
(意味は変わりません)。以後の解説は、新民法の文言に従って記述します。
① 時効中断 → 時効更新
② 時効停止 → 時効完成猶予
時効の進行を止めるためには、原則として裁判上の請求(新民法第147条2項)、
強制執行(新民法第148条2項)を行うか、債務の承認(新民法第152条1項)をして
時効更新をすることが必要で、催告(裁判によらない請求)は時効完成猶予の効力しか持たない
(新民法第150条1項)ため、時効の進行が一時的に止まるにすぎないことは、改正前と同様です。
ただし、現民法では時効更新(時効中断)事由として規定されていた、仮差押え、仮処分
(現民法第147条2号)が、時効完成猶予の効力しか持たないようになる(新民法第149条)ため、
この点は注意が必要です。
また、「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた」ことが、時効完成猶予事由として
新設されます(新民法第151条1項)。
債権の額に争いがある等の理由により、債務承認を受けることはできないが、裁判外での協議を
行いたい場合等に利用可能ではないかと思われます。
3 いつから新民法の規定が適用されるのか
民法が改正されても、改正後はすべて新民法が適用されるわけではありません。
どちらが適用されるかは事案によって異なりますが、おおむね次のようになります。
〇 消滅時効期間
改正前に発生した債権については、現民法が適用されます(新民法附則第10条4項)。
ただし、改正後に発生した債権であっても、その原因となる法律行為(契約等)が改正前に
なされた場合には、現民法が適用されます(新民法附則第10条1項括弧書、4項)。
例えば、改正前に締結した委任契約について、改正後に成功し、成功報酬が発生した場合が
これに当たります。
また、改正前にされた商行為によって発生した債権については、商事消滅時効が適用されます
(民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備 等に関する法律第4条7項)。
〇 時効更新(時効中断)事由、時効完成猶予(時効停止事由)
当該事由が改正前に発生したものであれば現民法が適用され、改正後に発生したものであれば
新民法が適用されます(新民法附則第10条2項)。改正前に発生した債権であっても、改正後に
当該事由が発生したものであれば、新民法が適用されます。
改正後に新設される、「協議を行う旨の合意」については、改正後に合意し、書面が作成された
場合についてのみ、時効完成猶予の効果が発生します(新民法附則第10条3項)。ただし、改正前に
発生した債権であっても、改正後に合意し、書面が作成された場合には、時効完成猶予の効果が発生します。
以上が、債権管理にあたって特に重要と思われる新民法の規定ですが、この他にも改正点は多数あります。
実際の場面における適用関係については、その都度ご確認いただきますようお願いいたします。
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