2019年12月26日
裁量労働制について
一時期話題となった裁量労働制(裁量勤務)ですが,以前から存在している制度です。
今回は,裁量労働制の制度について,簡単に解説いたします。
1 裁量労働制とは
裁量労働制とは,出退勤時間を定めず,労働者の裁量に委ねるものです。
予め1日の所定労働時間(みなし時間)を定め,所定労働時間を超過して勤務しても,原則として時間外手当(残業代)は支払われません。
他方で,所定労働時間よりも短い勤務をしても,所定労働時間分の給与が支払われます。
例えば,仕事が多い日は9時から21時まで勤務し,仕事の少ない日は13時から17時まで勤務する等,
労働者が出退勤時間を原則として自由に選択できる制度です。
2 裁量労働制の対象となる職種
(1)専門型裁量労働時間制
研究職,マスコミ,コピーライター,システムコンサルタント,インテリアコーディネーター,証券アナリスト,公認会計士,弁護士,
建築士,不動産鑑定士,弁理士,税理士,中小企業診断士等の労働者が対象となります。
(2)企画業務型裁量労働時間制
事業の運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画,立案,調査及び分析を行う労働者(いわゆるホワイトカラー)が対象となります。
3 支払わなければならない割増賃金
(1)深夜手当
22時から翌5時までの時間帯に労働した労働者に対しては,深夜手当を支払う必要があります。
(2)休日手当
法定休日に労働した労働者に対しては,休日手当を支払う必要があります。
4 出勤日,有給休暇,欠勤等
裁量労働制は,あくまで出退勤時間に裁量を与えるものですので,労働日には裁量がありません。
そのため,有給休暇は法定どおり付与されますし,所定労働日に一切労働しなければ,欠勤として扱うことも可能です。
5 出退勤時間の指示について
裁量労働制は,出退勤時間を労働者の裁量に委ねる制度ですので,原則として,出退勤時間の指示をすることはできません。
もっとも,「毎月15日は9時から会議」というような指示は許容されます。また,出退勤時間の範囲を定めることも許容されます。
例えば,出勤は5時以降,退勤は22時までという定め方です。
他方,「毎朝9時から朝礼」というような場合には注意が必要です。この場合,朝礼が任意参加で,
参加しなくとも特段の不利益がなければ問題ありませんが,強制参加の場合は,事実上,労働時間のコアタイムを定めていることとなります。
そうなりますと,出退勤時間が裁量に委ねられていませんので,裁量労働制は,原則として適用できません。
6 手続き漏れに注意
裁量労働制を適用するためには,労働基準法等に定められた厳格な手続きを経る必要があります。
この手続きを怠った場合には,裁量労働制は適用されず,時間外手当等を支払う必要が生じます。時間外手当は,原則として
1日ごとに計算することとなりますので,裁量労働制が適用される前提で処理をしていると,膨大な額の時間外手当を
支払う必要が発生することもあります。
裁量労働制を適用する場合は,くれぐれも手続き漏れにご注意ください。
以上,裁量労働制について簡単に解説いたしましたが,実際の場面における適用関係については,
その都度ご確認いただきますようお願いいたします。特に,今回解説した裁量労働制は,
要件が厳格に定められていますので,慎重に判断してください。
内容については十分留意しておりますが,正確性を保証するものではなく,本コラムに起因した損害が発生した
場合であっても,当事務所は一切の責任を負いません。