2020年02月27日
退職代行者(退職代行業者)からの退職通知について
今回は,最近多いといわれている,退職代行者から従業員の退職の通知が届いた場合,
使用者側として対応すべき事項等を,簡単に解説いたします。
1 退職代行とは
文字どおり,退職の手続きを代行する者です。一般的には,退職届の提出を代行することが多いようです。
なお,後述しますが,弁護士及び一部の司法書士以外の者が行っている場合は,あくまで「代行」であり,
「代理」ではありません。
2 退職代行者から退職の通知を受け取った場合
(1)基本的な考え方
優秀な従業員が,退職代行者を使用して,退職の通知が送付された場合,使用者としては,慰留したいという
考えが思い浮かぶ場合もあるかと存じます。
しかしながら,退職代行者を使用するには費用がかかります。従いまして,当該従業員の側としては,「費用をかけても,
使用者とは直接やり取りをしたくない」という状況です。そのため,慰留する可能性は低いものと考えられます。
以上から,退職の通知を受け取ってしまった以上,当該従業員が退職をする前提で,退職手続きを粛々と進めていかざるを
得ないものと考えられます。
(2)退職届を受け取った後の対応
まずは,当該従業員の雇用契約及び貴社の就業規則(もしくは民法)と照らし合わせた上で,
退職日について確認し,それが妥当なものであるかを確認します。
なお,民法上は,当該従業員の「雇用の期間」が定められている場合には,原則として,「やむを得ない事由」
がなければ契約の解除,すなわち,退職できません。また,期間が定められていない場合には,解約の申入日から
2週間を経過することによって終了します。
各規則に照らし合わせ,退職日までの間は,法律的には雇用契約が継続していますので,業務命令として,
出勤を命ずることが可能です。
(3)未払賃金支払請求,有給休暇の消化,買取等の申し入れがある場合
これらの申し入れがある場合,まずは代行者が弁護士もしくは司法書士(以下「弁護士等」といいます。)であるのか,
それ以外の者(行政書士や一般の業者)であるのかを確認します。代行者が弁護士等以外の者である場合には,
具体的な交渉の代理はできません(行った者は「非弁行為」として犯罪になります)。なお,司法書士の場合,厳密には,
「法務大臣認定司法書士」でなければ交渉の代理はできません。
有給休暇の消化について,具体的な例を挙げますと,土日祝日が休日で,2月3日から出勤をしたくない場合で,
有給が20日残っている場合には,3月3日まで有給を使用し,3月4日に退職日を設定して通知がされたような場合です。
このような場合でも,希望をそのまま受け入れ,交渉をする必要がない場合には,代行者が弁護士等以外の者であっても,
手続きを進めて問題ありません。
他方で,有給休暇の時季変更権を行使する場合には,当該従業員が受け入れるとは考えにくいため,交渉が必要となります。
このような場合には,弁護士等が代行者であれば,当該弁護士等と交渉をし,弁護士等以外の者が代行者である場合には,
当該従業員本人と交渉をすることとなります。
(4)事実上の問題点
以上より,一定の場合には,従業員に対して出勤命令や有給休暇の時季変更権を行使することが,法律上は可能です。
他方で,退職代行を使用してでも退職したいと考えている従業員が,これを受け入れて出勤することは稀かと思われます。
そのため,引継ぎが未了のまま退職しようとしている従業員について,引継ぎ業務を行わせることも困難です。
このような場合,使用者にとって,どこまで引継ぎが重要かによって,取り得る対応は異なりますが,在宅勤務扱いにする,
休日もしくは時間外等の他の従業員がいない時間帯の勤務を認める等の対応が考えられます。また,有給休暇の消化をして
退職しようとしている従業員に対しては,時季変更権を行使する代わりに,有給休暇の買い取りを提案するといった対応も考えられます。
これらのいずれも不可能なような場合には,引継ぎに必要な最低限の情報を,電話や書面等で聴取することで,
多少は円滑な引継ぎができる可能性が高まります。
なお,当然ですが,引継ぎのためとはいえ,休日もしくは時間外勤務を命じた場合には,割増賃金を支払う必要があります。
3 まとめ
退職代行者から退職の通知を受け取った場合でも,従業員本人からの通知の場合の退職手続きと変わることはありません。
また,未払賃金支払請求,有給休暇の消化,買取等の申し入れがある場合でも,同様に,通常の場合と対応が変わることはありません。
そのため,退職代行者ということを特別視する必要はないものと考えられます。また,当該退職について,交渉を弁護士に依頼するか
どうかについても,従業員本人からの場合と同様に考えることができます。
なお,未払賃金支払請求や,有給休暇の消化,買取等の申し入れがある場合で,時季変更権を行使する場合等は,
法律的な判断が必要となる場合もあります。
いずれにしましても,判断に迷った際には,一度,弁護士等の専門職にご相談なさることをお勧めいたします。
以上,退職代行について簡単に解説いたしましたが,実際の場面における適用関係については,
その都度ご確認いただきますようお願いいたします。
内容については十分留意しておりますが,正確性を保証するものではなく,本コラムに起因した損害が発生した場合であっても,
当事務所は一切の責任を負いません。