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弁護士法人アルファ総合法律事務所

在宅勤務の注意点・休業命令等の場合の給与支給等について

2020年04月24日

在宅勤務の注意点・休業命令等の場合の給与支給等について

新型コロナウイルス感染症への対策として,多くの企業で在宅勤務,休業命令等がなされているところです。

影響が長引くことも想定されるため,確認の意味も込め,在宅勤務の注意点,休業命令等を発令した場合の

給与支給について,簡単に解説いたします。

 

1 在宅勤務の注意点

あえて指摘するまでもありませんが,「勤務」とあるとおり,給与は所定どおり支払う必要があります。

なお,そもそも在宅勤務の規定が存在しない場合には,まず,規定を整備する必要があります。

在宅勤務の注意点としては,就業場所が自宅になるだけで,使用者側の義務には何ら変更がない点です。

そのため,従業員の労働時間管理義務は免除されませんし,法定労働時間を超過して労働している労働者に対しては,

割増賃金の支払義務があります。また,始業から終業までの間以外には,業務命令はできませんし,

業務に関する連絡もできません。そして,業務中の事故については,労災となります。

 

在宅勤務の場合,労働時間の管理は自己申告制になることも多いと思われますが,

始業前及び終業後に業務を行う必要はないことを周知徹底する等,

適切に労働時間の申告ができる環境を整える必要があります。

 

2 休業命令の際の給与,休業手当支払要否

⑴ 労働者本人が感染した場合

新型コロナウイルス感染症は,感染法予防法上の「指定感染症」となっており,感染症予防法が準用されます(感染症予防法7条)。

そのため,都道府県知事が就業制限を行うことが可能となっており,これにより労働者が休業する場合には,

休業手当を支払う必要はありません(別途,健康保険から傷病手当金が支払われる可能性はあります)。

なお,就業制限対象業種は,「飲食物の製造,販売,調製又は取扱いの際に飲食物に直接接触する業務」

(感染法予防法施行規則11条2項4号)となっています。

 

他方で,労働者本人が感染した場合でも,都道府県知事による就業制限が行われない場合には,原則として,

「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し,休業手当を支払う必要があると解されています。

休業手当は,平均賃金の60パーセント以上である必要があります(労働基準法26条)。

 

⑵ 労働者本人に感染が疑われる場合

労働者の家族が感染した場合,感染者との濃厚接触が判明した場合等,感染はしていないが,

感染が疑われる場合の休業命令についても,「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し,

休業手当を支払う必要があります。

 

⑶ 労働者が自主的に休業する場合

通常の場合と異なるところはなく,有給休暇,欠勤等の取り扱いで問題ありません。

 

⑷ 不可抗力の主張

休業手当の支払いが必要なのは,「使用者の責に帰すべき事由による休業」ですので,不可抗力による場合は,

「使用者の責に帰すべき事由」ではなく,休業手当を支払う必要はありません。

この点,不可抗力と認められるためには,

①その原因が事業の外部より発生した事故であること

②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

の2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。

 

現在,一部業種を除いて休業要請はされておらず,在宅勤務等によって業務を行うことも可能な業種が多いと思われます。

そのため,休業命令は,原則として「使用者の責に帰すべき事由による休業」となります。

 

ただし,接客業等,在宅勤務が不可能な業種で,各都道府県から出されている休業要請に基づく場合や,

パチンコ店で検討(令和2年4月23日の執筆時点)されているように,新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく

休業の「指示」(同法45条)が出され,休業しなければ施設名が公表されるような場合には,

不可抗力と認められ,休業手当の支払いが不要となる可能性はあります。

また,外出自粛要請によって利用客が激減し,休業せざるを得ないような場合にも,不可抗力と認められ,

休業手当の支払いが不要となる可能性はあります。

 

不可抗力の主張は,休業手当を支払う必要がないというメリットはありますが,労働者との間でトラブルとなり,

訴訟に発展した上,不可抗力が認められなかった場合には,会社に甚大な損害を及ぼす危険性があります。

不可抗力を前提に,休業手当を支払わない対応をする場合には,

事前に,弁護士等,法律の専門家にご相談なさることを強くお勧めいたします。

 

⑸ 給与を全額支払わなければならない場合

あまり想定できない事態ですが,民法上の使用者の責に帰すべき事由による休業の場合,

給与の全額を支払う必要がある場合があります(改正前民法536条2項前段,現行民法536条2項前段)。

ここにいう使用者の責に帰すべき事由とは,労働基準法26条よりも狭く,故意,過失又は信義則上

これらに準ずる事由がある場合をいいます。

例えば,使用者の側で新型コロナウイルス感染症に対する対策を何ら行わず,通常どおり労働者を出勤させたために,

社内でクラスターが発生し,休業させざるを得なくなったような場合には,該当する可能性があります。

また,在宅勤務等が可能であるにもかかわらず,何らの検討もせずに,

一方的に休業命令を出したような場合にも,該当する可能性があります。

 

 

以上,在宅勤務の注意点,休業命令等を発令した場合の給与支給について解説いたしましたが,

実際の場面における適用関係については,各労働契約,就業規則,個別具体的な事情等によっても異なりますので,

その都度ご確認いただきますようお願いいたします。

 

内容については十分留意しておりますが,執筆者の私見を含むものであり,正確性を保証するものではありません。

本コラムに起因した損害が発生した場合であっても,当事務所は一切の責任を負いません。

 

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