2020年06月30日
貴社が第三債務者の債権差押命令を受け取った場合の対応について
日々の業務を行っている中で,裁判所から「債権差押命令」という書類を
受け取ることがあるかもしれません。
今回は,この債権差押命令を受け取った場合の対応について,貴社が第三債務者となる債権差押命令の事案で多いと思われる,
給与の差押えを例にして,簡単に解説いたします。
1 登場人物
以下の登場人物の関係性は,次のとおりとします。
・貴社 ・貴社の従業員:Aさん ・貸金業者:B社
2 第三債務者とは
債権差押命令の当事者は,「債権者」,「債務者」,「第三債務者」の三者です。
債権者,債務者という用語はなじみがあるかと存じますが,第三債務者という用語は初耳の方もいらっしゃるかと存じます。
第三債務者とは,債務者に対して債務を負っている方をいう,法律上の用語です。
3 「債権者」,「債務者」,「第三債務者」の関係
Aさんは,B社から借り入れがあります。B社はAさんが期限までに返済しなかったため,訴訟提起をし,
勝訴判決を得た上で,Aさんの給与を差し押さえる,債権差押命令(強制執行)を申し立てました。Aさんは貴社の従業員ですので,
貴社は,Aさんに対して給与支払債務を負っています。
この場合,債権差押命令における「債権者」はB社,「債務者」はAさん,「第三債務者」は貴社となります。
4 債権差押命令を受領した後の対応
⑴ 債権差押命令には,説明書と,多くの場合,陳述書が同封されています。陳述書は,必要事項を記入の上,
指定された箇所(多くの場合,裁判所と債権者)に送付する必要がありますので,速やかに対応してください。
⑵ 債権差押命令は,債権者,債務者,第三債務者の三者に送達されます。従いまして,貴社が受領した債権差押命令を,
Aさんに交付する必要はありません。
受領後は,速やかに担当部署に債権差押命令を引き継いでください。なお,必ずしも本社に送達されるとは限りません。
また,差し押さえられた給与の額等を計算するために必要ですので,原本は,必ず貴社で保管してください。
⑶ 債権差押命令を貴社が受領すると,受領後に支払うべき給与から,差し押さえの効力が及びます。
差し押さえの効力により,貴社は,Aさんに対して,差し押さえられた給与の支払いを禁止されます。
仮に,差し押さえられた給与をAさんに支払ってしまった場合でも,B社は貴社に対し,一定の要件の下,差し押さえられた
給与の支払請求ができ,貴社はこの支払請求を拒否できません。
なお,債権差押命令は,第三債務者に送達した後に,債務者に送達することとなっています。そのため,貴社が債権差押命令を受領した直後に
給与支給日がある場合,Aさんがなかなか書類を受領しない場合等には,Aさんは未だ債権差押命令を受け取っていないこともあります。
この場合でも,差し押さえの効力が発生していますので,貴社はAさんに対して支払ってはなりません。
⑷ 債権差押命令を債務者が受け取ってから一定期間が経過すると,債権者は第三債務者に対し,差し押さえた債権の支払請求ができます。
この支払請求権のことを「取立権」といいます。
取立権が発生した後,B社は貴社に対し,支払請求と支払方法の打ち合わせのため,連絡を入れます。債権差押命令が債務者に送達された日は,
債権者が保有している「送達通知書」で確認できます。そのため,まずは,B社に対し,送達通知書の写しの交付を求め,
B社に取立権が発生しているかどうか,確認をしてください。
B社に取立権が発生していることが確認できた場合には,差し押さえられた給与の額をB社に対して直接支払ってください。
なお,振り込みで支払う場合,振込手数料は債権者の負担ですので,振り込む額は,振込手数料を控除した額で問題ありません。
⑸ Aさんに対する債権差押命令が,別の債権者からも届いた場合,差押えの「競合」となります。
この場合には,貴社はB社に支払うのではなく,供託をする必要があります。
⑹ 貴社が債権差押命令を受け取ったにもかかわらず,B社が請求をしてこない場合でも,Aさんに支払うことはお勧めできません。
後にB社から請求をされた場合には,B社に対して支払わなければならないためです。これは,AさんがB社に対して
既に支払ったと主張している場合でも同様です。
このような場合には,差し押さえられた給与を供託することをお勧めします。
⑺ また,Aさんに対し,自ら支払うように促すこと自体は問題ありませんが,促されたAさんが支払うとは限りません。
「個人の問題である」として,債務者本人に対応を丸投げし,貴社が対応しないことは,債権者が迷惑しますし,
貴社は法的義務に反していることとなりますので,おやめください。
⑻ 給与の差し押さえは,差し押さえられ給与の額が,債権者の請求額に達するか,債権者が取り下げるまで継続します。
差し押さえが継続している間は,Aさんの主張にかかわらず,粛々と上記の対応を取ることをお勧めします。
なお,取り下げられた場合には,貴社にもその旨の通知が届きます。
以上,貴社が第三債務者として債権差押命令を受け取った場合の対応について解説いたしましたが,実際の場面の対応においては,
その都度ご確認いただきますようお願いいたします。
内容については十分留意しておりますが,執筆者の私見を含むものであり,正確性を保証するものではありません。
本コラムに起因した損害が発生した場合であっても,当事務所は一切の責任を負いません。