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弁護士法人アルファ総合法律事務所

育児・介護休業法10条「不利益な取扱い」に該当するとされた一例

2020年12月22日

育児・介護休業法10条「不利益な取扱い」に該当するとされた一例

育児・介護休業法第10条は,次のように,不利益取扱いの禁止が規定されています。

「労働者が育児休業申出をし,又は育児休業をしたことを理由として,当該労働者に対して

解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」

今回は,この「不利益な取扱い」に該当すると判断された裁判例をご紹介します。

なお,当該裁判例の争点は一つではありませんが,今回は,昇給の点に限ってご紹介します。

 

1 原則
いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」は,育児・介護休業にも適用されますので,

休業期間を働かなかったものとして取り扱うことは,「不利益な取扱い」には該当しないのが原則です。

2 【大阪地方裁判所平成31年4月24日判決 労働判例1202号39頁】の事案

以下,労働者(原告)を「X」,使用者(被告)を「Y」と表記します。

(1)事案の概要

ア 昇給に係る給与規程の内容

・ 昇給は,通常毎年4月1日に行う。

・ 昇給の資格のある者は,当年4月1日現在在職者で,原則として前年度12ヵ月勤務した者とする。

イ 育児休業規程の内容

休業の期間は,昇給のための必要な期間に算入しない。昇給は原則として,復職後12ヵ月勤務した直近の4月に実施する。

ウ Xの育児休業期間

平成27年11月1日から平成28年7月31日まで。

エ 昇給の不実施

Xが育児休業したことにより,平成28年度(同年4月1日)の定期昇給が実施されず,復職後の給与も休業前のままであった。

なお,復職後の平成29年4月1日の定期昇給は実施されている。

(2)争点

平成28年4月1日にXの定期昇給を実施しなかったことが「不利益な取扱い」に該当するか否か。

(3)裁判所の判断

ア 育児・介護休業法は,休業期間を出勤として取り扱うべきことを義務付けているものではない。

休業期間を出勤として取り扱うかどうかは,原則として労使間の合意に委ねられているため,休業期間を出勤として

扱わなかったとしても,直ちに「不利益な取扱い」に該当するものではない。

 

イ しかしながら,次の理由から,定期昇給を実施しなかったことは,「不利益な取扱い」に該当する。

① Yにおける定期昇給は,昇給停止事由がない限り在籍年数の経過に基づき一律に実施されるものであって,

いわゆる年功賃金的な考え方を原則としたものである。

② Y昇給基準日前の1年間のうち一部でも休業をした職員に対し,残りの期間の就労状況如何にかかわらず

当該年度に係る昇給の機会を一切与えないというものである。

③ 昇給不実施による不利益は,年功賃金的な昇給制度においては将来的にも昇給の遅れとして継続し,

その程度が増大する性質を有する。

以上より,少なくとも,定期昇給日の前年度のうち一部の期間のみ育児休業をした職員に対し,定期昇給させないこととする取扱いは,

当該職員に対し,育児休業をしたことを理由に,当該休業期間に不就労であったことによる効果以上の不利益を与えるものであって,

「不利益な取扱い」に該当する。

 

3 上記裁判例についての若干の解説

(1)以下は私見ですので,他の解釈もあります。ご参考になさる際は,この点に十分ご留意ください。

(2)上記裁判例は,①乃至③の理由にすべて該当する事案に対する判断です。そのため,

次のような場合には,該当しないと考えることができます。

ア 年功賃金的な昇給制度ではなく,前年度の実績(営業成績等)等に基づいて実施される昇給制度とされている場合

この場合,上記の理由①に該当しないこととなると考えられます。また,勤務している労働者の中でも,

昇給する者としない者がおりますので,勤務していない労働者を昇給させないという取扱いは,「不利益な取扱い」に該当しないと考えられます。

イ 1年間の全部を休業した場合に限り,昇給しないこととされている場合

この場合,上記の理由②に該当しないこととなると考えられます。なお,この裁判例で判断されていないだけで,

「不利益な取扱い」に該当するという解釈も有り得ますので,ご留意ください。

ウ 休業期間に応じた割合で昇給しないこととされている場合

この場合,上記の理由②に該当しないこととなると考えられます。

エ 昇給条件を「12ヵ月勤務」よりも短期間の勤務としている場合

この場合,上記の理由②に該当しないこととなると考えられます。

 

もっとも,上記裁判例の事案は,昇給資格算定期間との関係では,平成27年11月1日から平成28年3月31日までの

5ヵ月間勤務していません。そのため,例えば「12ヵ月勤務」を「6ヵ月勤務」にしたとしても,上記裁判例と同様,

「不利益な取扱い」に該当するとの判断も有り得ます。

 

(3)上記裁判例は,あくまで地方裁判所の判決であり,担当裁判官によっては,異なる判断がされる可能性もあります。

実際,上記裁判例に対しては批判もあります。

もっとも,労働者との紛争に発展した場合,解決のためには相応の時間と費用が必要です。そのため,

リスクを最小化するという意味では,定期昇給に関し,育児・介護休業をした場合も昇給すると規定する等,

上記裁判例のように,労働者に有利に取り扱うことが最善であると考えられます。

 

以上,育児・介護休業法第10条「不利益な取扱い」につき,定期昇給の場面で該当するとされた一例をご紹介いたしました。

実際の場面における適用関係については,個別具体的な事情等によっても異なりますので,

その都度ご確認いただきますようお願いいたします。

 

内容については十分留意しておりますが,正確性を保証するものではありません。

本コラムに起因した損害が発生した場合であっても,当事務所は一切の責任を負いません。

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