2021年03月02日
解雇について
従業員の態度が悪い,能力不足,勤務成績が不良等で,当該従業員を解雇したいこともあるかと存じます。
しかしながら,ご承知のとおり,日本においては解雇が制限されています。
今回は,解雇のうち,普通解雇について,簡単に解説いたします。
1 解雇の種類
⑴ 懲戒解雇
就業規則に基づき,規律違反をした労働者に対する制裁としてなされる解雇です。
原則として,就業規則に懲戒解雇の規定が必要です。
なお,懲戒処分の性質と解雇の性質の双方を有しますので,双方の要件に該当することが必要です。
⑵ 整理解雇
業績不振により,企業を存続させる上で経営上必要とされる人員削減のためになされる解雇です。
⑶ 普通解雇
上記以外の理由による解雇です。
2 解雇制限
⑴ 期間の定めのない労働契約の場合
使用者は,「解雇権」を有しています。「権」とあるとおり,解雇は,使用者側に認められた権利ではあります。
しかしながら,(解雇に限りませんが,)権利を濫用した場合には,その行使は許されません。この点,労働契約法第16条においては,
「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,
その権利を濫用したものとして,無効とする」と規定されており,このような解雇は許されません。
⑵ 期間の定めのある労働契約の場合
労働契約法第17条第1項により,解雇をするためには,「やむを得ない事由がある」ことが必要です。
ここにいう「やむを得ない事由」とは,上記期間の定めのない労働契約の労働者の解雇の場合よりも厳格なもので,
解雇できる事由は,より限定されます。
3 解雇の合理的理由
大要,次の4つが「客観的に合理的な理由」に該当するとされています。
なお,就業規則を作成している場合は,解雇事由は就業規則に規定されていなければなりません。
⑴ 労働者の労務提供不能や労働能力・適格性の欠如・喪失
⑵ 労働者の規律違反行為
⑶ 経営上の必要性に基づく理由
⑷ ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求
4 社会通念上相当
⑴ 上記の「客観的に合理的な理由」が存在する場合でも,解雇が「社会通念上相当として是認することが
できない場合」は,解雇は無効となります。
そのため,単に解雇事由に該当するだけで解雇することはできません。一般的には,解雇の事由が重大な程度に
達しており,他に解雇回避の手段がなく,かつ労働者の側に宥恕すべき事情がほとんどない場合にのみ
「社会通念上相当」と認められています。
従いまして,解雇は「最後の手段」であり,解雇回避の手段がある場合には,まずは当該手段を講じるべきとされています。
⑵ 例えば,ニュースアナウンサーが,2週間のうちに二度寝過ごしたため10分間のニュースを,一度目は全部,
二度目は約5分間放送できなかったという事案において,解雇は無効と判断されています(最高裁判所昭和52年1月31日第二小法廷判決)。
その理由は,大要,次のようなものです。
① いずれもアナウンサーの過失によって発生したものであり,悪意ないし故意によるものではないこと
② 通常は,ニュース編成担当者が目覚まし時計を使用して先に先に起き,その後,アナウンサーを起こす
ことになっていたところ,その編成担当者においても寝過ごしたため,起こすことができなかったことにより,
アナウンサーのみを責めるのは酷であること
③ 当該アナウンサーは,1回目の事故については直ちに謝罪し,2回目の事故については起床後
一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと
④ 2回とも寝過ごしによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと
⑤ 使用者において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと
⑥ 当該アナウンサーはこれまで放送事故歴がなく,平素の勤務成績も別段悪くないこと
⑦ 2回目の編成担当者はけん責処分に処せられたに過ぎないこと
⑧ 当該会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと
⑨ 2回目の事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること
このような事実から,当該アナウンサーを解雇することは,苛酷に過ぎ,合理性を欠き,必ずしも社会的に相当なものとして
是認することはできないと判断されました。
⑶ このように,解雇をするに当たっては,単に解雇事由に該当するか否かだけでなく,過去の注意歴,普段の勤務態度,
改善の見込み,指導監督の状況等を検討し,配置転換等ではなく,解雇以外に選択肢がないかどうかまで検討する必要があります。
なお,成績不良者の解雇に当たり,単に成績が不良というだけでなく,それが企業経営に支障を生ずるなどして企業から
排斥すべき程度に達していなければ,社会的に相当とはいえないと判断した裁判例も存在します(東京地方裁判所平成13年8月10日判決)。
5 解雇無効の場合の賃金支払義務
労働者に解雇を通告した場合,その後,訴訟等により,解雇が無効と主張されることがあります。
このような訴訟等により,事後的に解雇が無効と判断された場合,過去に遡って賃金を支払う義務があります。
解雇を通告している以上,労働者は労働していませんが,使用者側の責任で労働していないことになりますので,
労働をしていない期間であっても,賃金支払義務があります。
以上,解雇について簡単に解説いたしましたが,実際の場面における適用関係については,
個別具体的な事情等によっても異なりますので,その都度ご確認いただきますようお願いいたします。
内容については十分留意しておりますが,正確性を保証するものではありません。
本コラムに起因した損害が発生した場合であっても,当事務所は一切の責任を負いません。