2021年08月30日
労働基準法上の管理監督者とは
労働基準法上の労働時間,休憩及び休日に関する規定の適用が除外される対象者に,
「監督若しくは管理の地位にある者」(省略して「管理監督者」と呼ばれています。)が
挙げられています(労働基準法41条2号)。
「管理職」と言われることもありますが,一般的に言われている管理職とは必ずしも一致しません。
今回は,管理監督者に該当するのはどのような方なのか,簡単に解説いたします。
なお,執筆者の私見を含むものですので,予めご了承ください。
1 管理監督者に該当する場合
管理監督者に該当する場合,労働基準法上の労働時間,休憩及び休日に関する規定が
適用除外となります。
そのため,時間外割増賃金,休日割増賃金等の支払義務がありません。
2 管理監督者該当性の判断要素
管理監督者が時間外手当支給の対象外とされるのは,その者が,経営者と一体的な立場において,
労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような
重要な職務と権限を付与され,また,そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において,
他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り,厳格な労働時間等の規制をしなくても
その保護に欠けるところがないといえる立場か否かという点から判断されます。
具体的には,
①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,
②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,
③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か
などの諸点から判断されます。
従いまして,「店長」,「工場長」等,一般的に「管理職」と扱われている役職名が付与されていたとしても,
これらに該当しない場合には,労働基準法上の「管理監督者」には該当しません。
3 経営者と一体的な立場(上記①)の点
重要な職務内容と権限が付与されていることが必要です。
具体的には,経営会議に参加し,経営方針等に関する発言をし,決定をする等,その過程に参加することができることにより,
企業運営に関する意思決定に関与できること等の場合が挙げられます。
従いまして,経営会議に参加していたとしても,質問された際に回答するのみ,議決権がなく意思決定には関与できない等の
場合には,重要な職務内容と権限が付与されているとはいえません。
また,従業員の採用,部下の人事評価,部下の賃金ないし労働条件,予算管理ないし費用管理の決定ができる等,
人事権,部下の査定,労務管理等,内部運営に関する職務内容と権限がある場合も挙げられます。
このような職務内容と権限が付与されている労働者は少ないかと存じますので,管理監督者に該当する労働者が
極めて限定されることがご理解いただけるかと存じます。
4 勤務態様(上記②)の点
残業(例えば1日10時間労働)をしても時間外割増が支払われない代わりに,
1日の労働時間が短い場合(例えば1日4時間労働)でも,給与の減額がされないものでなければなりません。
そのため,始業時刻,終業時刻も厳格には定められておらず,労働者自身が自由に決定できる必要があります。
ただし,会議の開始時刻を定める等,必要に応じて,始業時刻が定められることは許容されます。
5 給与(上記③)の点
どの程度の上乗せが必要か否かは会社の規模等によっても異なり,ケースバイケースですが,最低限,管理監督者以外の従業員の中で,
一番残業時間が長く,時間外割増の支払額が高い労働者よりも高額である必要があると考えられます。
そうでなければ,厳格な労働時間等の規制を受け,時間外割増が支払われる労働者よりも優遇されているとは言い難いと考えられます。
以上,管理監督者の該当性について,簡単に解説いたしましたが,実際の場面における適用関係については,
個別具体的な事情等によっても異なりますので,その都度ご確認いただきますようお願いいたします。
なお,一般論として,訴訟になった場合,管理監督者該当性は非常に厳しく判断されます。
内容については十分留意しておりますが,正確性を保証するものではありません。
本コラムに起因した損害が発生した場合であっても,当事務所は一切の責任を負いません。