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弁護士法人アルファ総合法律事務所

契約書の重要性について

2022年02月25日

契約書の重要性について

企業において,委任契約,請負契約,売買契約を締結する際,代金前払いとする場合も多いと思われます。

しかしながら,これらの契約の際,代金前払いは特約となります。そのため,契約書がない場合,訴訟による債権回収を図る場合の

障害となる恐れがあります。

今回は,これら契約について,その原則を確認するとともに,契約書の重要性について,簡単に解説いたします。

 

第1 各契約の代金支払時期の原則

1 委任契約

民法648条2項により,「委任事務を履行した後でなければ」報酬を請求できないとされています。また,民法648条の2第1項により,

成果報酬の場合には,成果の引渡しと同時に支払いとなります。

2 請負契約

民法633条により,「仕事の目的物の引渡しと同時に」支払わなければならないとされています。また,引渡しが不要な場合には,

仕事が完成した後でなければ,報酬を請求することができないとされています。

 

3 売買契約

民法533条により,目的物の引渡しと同時に支払いとなります。

スーパーやコンビニでの売買における代金支払が,法律上の原則となります。

 

 

第2 債権回収訴訟の場面

1 立証責任

訴訟においては,(相手方が争った場合,)証明(立証)しなければならない責任を負う当事者が定められています。

これを「立証責任」といい,責任を負っている当事者が証明できない場合(不明な場合を含みます。),その事実は「存在しない」ものとして扱われます。

そのため,訴訟によって債権回収を図る場合,前払いの合意を証明できなければ,上記の原則に従い,同時もしくは後払いとなってしまいます。

なお,契約書がない場合でも,入出金履歴や証人尋問等前払いの合意を証明することは可能ですが,契約書がある場合に比べ格段に手間がかかり,

訴訟が長期化する原因となります。

 

2 報酬が請求できないことも有り得る

例えば,代金前払いで,1階と2階を清掃する旨の請負契約を締結したとします。しかしながら,代金が支払われないまま1階の清掃を完了させた後,

代金が支払われないことを理由に,2階の清掃を行っていないとします。

この例において,受注者が代金前払い特約に従い,代金請求をしたとしても,それが証明できない場合には,2階の清掃を完了するまでの間,

報酬請求ができない場合があります。受注者としては,代金前払い特約に違反している発注者から報酬を得られる確証がないにもかかわらず,

2階の清掃を行うか,報酬請求を諦めるかの選択を迫られる可能性があります。

 

 

第3 契約書の重要性

 

1 契約書作成の目的

契約書作成の目的の一つは,証拠の確保です。債権回収の訴訟を想定した場合,契約書がある場合とない場合とで,証明の難易が格段に異なります。

また,複雑な契約の場合,書面化することで,契約内容が明確となりますので,後の紛争を防止することもできます。

 

2 契約書の内容

契約書を作成する場合,その内容も重要です。そのため,契約書を作成する場合には,文言1つ1つを確認し,自社に不利な内容や意図と異なる

解釈ができる箇所がないかを確認することが重要です。

例えば,「委託契約」とする場合,それが委任契約であるか,請負契約であるかが問題となることがあります。

原則として,委任契約の場合,必ずしも目的が達成されなくとも報酬請求ができます。他方,請負契約の場合,仕事が完成しなければ,

報酬請求ができません。

例えば,弁護士と訴訟に関する委任契約を締結した場合で,敗訴してしまった場合でも,弁護士は報酬を請求できます(通常は着手金を

いただいており,弁護士は,その着手金を返金する必要がありません。)。

もしこれが請負契約の場合,敗訴した場合には仕事が完成していませんので,弁護士は,報酬を請求できません。

そのため,委任契約を意図したにもかかわらず,請負契約と解釈できるような契約書を作成してしまった場合,最悪,

報酬の請求ができない可能性もあります。

 

3 経営上のリスク

契約書がない場合,契約の証明が難しくなり,債権回収の訴訟が長期化する原因ともなります。そのため,回収時期が大幅に遅れ,

場合によっては経営に対するリスクともなり得ます。

 

以上,契約書作成の重要性について,簡単に解説いたしましたが,実際の場面における適用関係については,

当該事案における様々な要素を総合的に考慮して判断することが必要ですので,個別具体的な事情等によって異なります。

また,上記はあくまで原則論となり,民法上でも例外規定が存在します。そのため,契約書がない場合に,必ず上記の結論となるものではありません。

従いまして,各適用関係につきましては,その都度ご確認いただきますようお願いいたします。

 

内容については十分留意しておりますが,正確性を保証するものではありません。

本コラムに起因した損害が発生した場合であっても,当事務所は一切の責任を負いません。

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