取締役と取締役会
法律上、「取締役」は全ての株式会社において必置の機関とされていますし、会社としての業務執行は、取締役ないし取締役会の意思決定を通じてしか行い得ませんので、会社を設立・運営していくに当たり、何よりもまず最初に検討しなければならない事項となります。
また、平成18年5月施行の会社法(以下に引用する条文は、特段の表記がない限り、全てこの「会社法」となります)では、取締役『会』の設置は原則として任意になりましたし、それぞれの会社ごとの機関設計によって、各取締役に与えられる役割や権限(大まかに(1)会社の進むべき方向性等について意思決定する「意思決定」機能、(2)その決定を実行に移す「執行」機能、(3)業務の執行が適正になされているかを確認する「監督」機能、(4)会社全体が不正な方向に進んでいないかを検査する「監査」機能)も異なるようになりましたので、会社を設立した者自身においてこれに就任するのか、他者にどのような点を任せるのかという点も含めて、会社の実情も踏まえて慎重に考慮のうえ決定していく必要があります。
そして、それが今後の会社の在り方そのものを決めるといっても過言ではありません。
以下では、取締役と取締役会の関係等について、大まかな枠組みを御説明しますが、一般に、会社の規模が小さいほど上の方の制度が、会社の規模が大きくなるほど下の方の制度が採用される事が多くなる傾向があります(また、株式公開をした場合、法律上特定の制度採用を強制される場合があります)。
基本形
まず、後で述べる例外を除いて、全ての取締役それぞれに業務執行権と会社の代表権があるというのが基本原則とされています(348条、349条)。
なお、取締役は1名でも問題ありません。取締役が複数いる場合でも、会社の業務執行に関する意思決定は取締役の過半数で行いますが、特に別段の定めがない限りやはり全ての取締役に代表権があるのが原則とされています。
代表取締役を決める場合
定款の定めにより、または定款の定めに基づく取締役の互選か株主総会決議のいずれかの方法で、特定の取締役を「代表取締役」に選出することもできます。この場合は代表取締役以外の取締役は代表権を有しない形となります(349条1項但書、3項)。
なお、代表取締役は複数存在しても構いません。
取締役会を設置する場合
取締役会の設置自体は原則任意とされていますが、自ら取締役会を設置することとした場合、あるいは法律の定めにより取締役会の設置が義務づけられている場合(327条。具体的には、公開会社、監査役会設置会社、委員会設置会社)、3名以上の取締役全員により取締役会を構成することとなります(331条4項、362条1項)。
なお、特例有限会社は、会社法で「株式会社」として位置づけられていますが、取締役会を設置することはできないとされています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第17条)。
取締役会は、会社の業務執行に関する決定のほか、代表取締役や代表取締役以外に業務を執行する取締役の選定・解職、それら職務執行者に対する監督を行うほか、以下に挙げる重要事項について決議することとなります(取締役に委任することができません)。
●重要な財産の処分及び譲受け(362条4項1号)
●多額の借財(362条4項2号)
●支配人その他の重要な使用人の選任及び解任(362条4項3号)
●支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止(362条4項4号)
●募集社債発行の決定(362条4項5号)
●業務の適正を確保するための体制の整備(362条4項6号)
●取締役の任務懈怠責任の免除の承認(362条4項7号)
●譲渡制限株式の譲渡の承認及び指定買取人の指定(139条1項、140条5項)
●自己株式の取得価格等の決定(157条)
●子会社からの自己株式の取得の決定(163条)
●取得条項付株式の取得の決定(168条1項、169条2項)
●自己株式の消却(178条)
●株式分割(183条2項)
●株式無償割当てに関する事項の決定(186条)
●単元株式数についての定款変更(195条1項)
●所在不明株主の株式の競売もしくは売却または買取(197条)
●公開会社における新株発行とその内容の決定(201条、202条)
●譲渡制限株式の割当てを受ける者の決定(204条)
●一株に満たない端数の買取り(234条5項)
●公開会社における新株予約権の発行とその内容の決定(240条、241条)
●譲渡制限株式を目的とする募集新株予約権または譲渡制限新株予約権の割当てを受ける者の決定(243条)
●譲渡制限新株予約権の譲渡の承認(265条1項)
●取得条項付新株予約権の取得の決定(273条1項、274条2項)
●新株予約権の消却(276条)
●新株予約権無償割当てに関する事項の決定(278条)
●株主総会の招集(298条4項)
●訴訟における代表者の選任(353条、364条)
●取締役による競業取引および利益相反取引の承認(356条、365条1項)
●取締役会を招集する取締役の決定(366条1項但書)
●特別取締役の設置(373条1項)
●計算書類の承認(436条3項)
●臨時計算書類の承認(441条3項)
●連結計算書類の承認(444条5項)
●一定の場合における資本金・準備金の減少(447条3項、448条3項)
●中間配当の決定(454条5項)
特別取締役を決める場合
取締役の数が6人以上存在し、そのうち1人以上が社外取締役である株式会社においては、前述のように本来取締役会の決議事項とされている「重要財産の処分及び譲り受けと多額の借財」(362条4項1号2号)について、あらかじめ選定した3名以上の取締役の過半数の賛成で決議することができるとされています。この選定された取締役のことを特別取締役(373条)といいます。
指名委員会等設置会社となる場合
指名委員会等設置会社とは、取締役会そのものとは別に、その内部機関として少なくとも指名委員会、監査委員会および報酬委員会を設置する株式会社のことをいいます(2条12号)。このような制度は、従前は商法特例法上の「大会社」ないし「みなし大会社」のみが導入できましたが、会社法においては定款に委員会を置く旨の定めを設けることにより、会社の規模を問わず委員会設置会社となることができることとされました。
指名委員会等設置会社における各機関の役割は以下のとおりです。
A 取締役会
業務意思決定と、個々の取締役及び執行役による職務執行の監督(416条)。
なお、取締役は原則として業務の執行をすることはできませんが、(415条)。取締役と執行役を兼任することはできるとされています(402条6項)。
B 執行役
指名委員会等設置会社には、執行役をおかなければならず(402条1項)、業務執行はこの執行役(なお執行役が複数存在する場合に代表執行役を選任することになります)が行うこととなります。
C 指名委員会
株主総会に提出する取締役の選任及び解任に関する議案内容の決定(404条1項)。
D 監査委員会
取締役および執行役の職務が適正かどうかを監査し、株主総会に提出する会計監査人の選任および解任・不再任に関する内容を決定する(404条2項)。
E 報酬委員会
取締役および執行役の個人別の報酬内容、または報酬内容の決定に関する方針の決定(404条3項)。
それぞれの委員会は3名以上の取締役で構成され(400条。なお、委員会を構成する取締役の過半数は社外取締役でなければなりません)、各委員会の決定は拘束力を持つこととされています。
取締役会の運営について
以下では気をつけるべき、取締役会運営のルールについてご説明します。
招集手続
取締役会は、原則として各取締役が招集する事ができます。
ただし、招集権者を定款また取締役会で定めたときは、その取締役が招集することになります(この場合、招集権者以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができます(366条))。
決議の方法
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行うのが原則ですが、定款においてこれを上回る割合を定めることもできます(369条1項)。また、取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができるとされていますので(370条)、これを活用して書面による持ち回り決議等も可能になります。
なお、決議について特別の利害関係を有する取締役は取締役会の決議に参加することができず(369条2項)、前述の「過半数」等の計算の際には、その取締役の分だけ人数を減らして数えることになりますので注意が必要です。
議事録の作成
取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役および監査役は、これに署名しまたは記名押印しなければなりません(369条3項)。また、この議事録は一定の場合において株主による閲覧謄写請求の対象となりますので、慎重かつ確実な内容で作成をすることが重要となります。
当事務所では、取締役会を含めた組織構築・運営に関するご相談のほか、企業における法律問題全般について対応可能です。また、顧問弁護士制度を活用していただくことにより、定額の顧問料の範囲内で、債権回収などをはじめ他の法律問題も含めて総合的に相談できる形となりますので、ぜひご検討いただければと思います。
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