2018年08月09日
日本版司法取引の開始
平成30年6月1日から、いわゆる日本版司法取引制度が開始され、
先日、初適用事案の報道がなされました。
この日本版司法取引は大まかにいうと、他人の犯罪についての証拠収集について
被疑者・被告人が協力する見返りに、自己の刑事責任の減免を受ける制度です。
平成28年の刑事訴訟法の改正により定められた制度で(刑事訴訟法第350条2項~第350条15項)、
これにより、証拠収集が難しいとされる組織的な犯罪の解明に役立つことが期待されています。
つまり、事件が明るみになりにくく証拠の隠匿がされやすい、
いわゆる立件困難な類型の事件において、
内部協力者にインセンティブを与え、証拠の提供等の協力を受けやすくすることで
真相解明に役立てることを目的としているのです。
対象となる犯罪は特定されており、贈賄罪、詐欺罪、背任罪、業務上横領罪の他、
租税に関する法律の違反、独占禁止法違反、金融商品取引法違反、等ですが、
経済・財政関係の犯罪が対象となっているため、企業活動にも大いに関係してくる制度といえます。
今回の初適用事例となった、三菱日立パワーシステムズの件がその例で、
同社は元役員ら3人の不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)の罪に関する協力をした見返りに、
法人としての起訴を免れる内容の取引をしたといわれています。
これは、不正競争防止法における外国公務員贈賄罪(同法第18条1項)が
国際商取引における外国公務員への不正な利益供与による公正な競争が害されることを防止することを目的とし、
贈賄行為者に5年以下の懲役または500万円以下の罰金を科し、さらに、
その企業にも違反行為防止のため必要な注意を怠った場合には3億円以下の罰金を科していることから、
会社として元役員らの外国公務員贈賄罪に関する証拠提供等を協力する見返りに
同罪による会社への罰金が科されることを免れたと考えられます。
この外国公務員贈賄罪のように、会社の代表者や従業者などが業務に関して違反行為をした場合、
直接の違反者を罰するほか、その会社自体をも罰することを認めている規定(いわゆる両罰規定)については
企業活動として日本版司法取引制度に関与する機会があることが予想されます。
また、カルテル等の複数企業間での犯罪については、
他の企業に先立って日本版司法制度を利用しようとする行動がとられることも予想されます。
これまで以上に、企業として企業犯罪の防止・早期発見に向けてのコンプライアンス体制を強化し
社員教育に取り組むことが重要といえますが、実際に企業犯罪が行われた場合には、
日本版司法取引制度の利用の検討も有用であり、その際は法律上、弁護人の関与が不可欠となっていますので、
有事の備えとして日本版司法取引制度について頭の片隅にでも入れておいていただけるとよいかと存じます。