2021年04月21日
事業承継~親族内承継③~事業承継に絡む税制(1)贈与税の基本
皆様こんにちは
弁護士法人アルファ総合法律事務所の代表弁護士・税理士の保坂光彦です。
前回、後継予定者に対し株式を譲る際の方法として「贈与」を選択する場合、デメリットの一つとして、
「贈与税」が掛かってくる場合があること、更にその負担が「相続税」の場合よりも重くなりやすいということを
お話しましたが、今回は、その問題を出来るだけ回避するための方策として考えられるポイントを見ていきたいと思います。
まず、最初に押さえておくべきポイントとしては、贈与税に関する基本となりますが、
『暦年贈与』(通常の贈与方法であり、1年毎に年間で受けた贈与の総額で税額が決まります)の仕組み上、
年間110万円までは贈与税は掛からないという点になります
(なお、110万円を超えた先は、累進課税により次第に税率が高くなっていきますし、
かつ、その税率は相続税よりも高めに設定されています)。
従って、年間110万円分ずつ毎年継続して贈与をしていく形であれば、10年で総額1100万、
20年で総額2200万円を無税で贈与できますので、少なくともこの範囲においては、
贈与を選択する際のデメリットが一つ無くなるということになります。
もっとも、この方法ですと譲渡を予定している株式の評価額が高額となる場合には、株式を完全に移転し終えるまでに
相当長期間を要することになってしまいかねませんし、最悪その途中で当事者が死亡してしまう
(期せずして相続が発生してしまう)という可能性も出てきます。
そこで、もう一つ考えられるのが、「相続時精算課税」という制度を利用た上で、
時間を掛けずに一気に贈与してしまうという方法です。
相続時精算課税とは、大まかに言いますと、一定の控除額(2500万円)を超える贈与分に対して、
定率(20%)の贈与税を一旦支払っておき、実際に相続が発生したときに改めて贈与財産も含めた
相続財産全体として税金を計算し直し、「差額」を納める形にするという制度です。
この方法を採用するメリットは、まず第1に、2500万円分までについては贈与税を全く払わなくて済むということと、
第2に、2500万円を超えた分に関しても、一般的な贈与税(10~55%の累進課税)と比較して軽減された税率
「一律20%」で納めれば済むため、贈与時点での税負担を考慮しないで、あるいは軽減した状態で、
売買の場合と同様、速やかに移転が出来るという事になります(もちろん、あくまでこれは贈与時においてであり、
最終的には相続税で調整される事から、必ずしもトータルで相続税の場合より税負担自体が軽くなるとは限りません)。
特に、相続税の計算においては、少なくとも3600万円(3000万円に相続人の数×600万円をプラスした額)
の基礎控除がありますので、相続財産全体がこの範囲内に収まる(結果として相続税自体が掛からない)場合には、
相続の発生をを待たずに即時に財産を移転できる分だけ確実にメリットがあると言えます
(当然、払いすぎた形になる贈与税は還付を受ける事もできます)。
また、付随的な点として、後日相続税の計算を行うに際しても、あくまで相続時点ではなく贈与時点の株価を用いることになるため、
贈与時よりも会社を成長させて株式の価格が高くなっているような場合に、税額面で有利となる点も見逃せません。
ただ、相続時精算課税を利用するためには、以下の条件がありますので、
誰でも何時でも好きなように使えるわけではない点には注意が必要です。
① 贈与者が(贈与した年の1月1日時点で)60歳以上であること
② 受贈者が(贈与を受けた年の1月1日時点で)20歳以上の子か孫であること
③ 相続時精算課税を一度選択してしまうと、その後暦年贈与には戻れない
(総額2500万を超えた分は、例え年が変わっても、以後全て20%の税率が適用されることになる)
*ちなみに、これらの条件や控除額の上限は、贈与をする人毎に判定されますので、両親からそれぞれ
2500万ずつ合計5000万円をこの相続時精算課税制度により贈与するということも可能となっています。
また、一方からは相続時精算課税を利用し、もう一方からは暦年贈与を続けるということも可能です。
以上のとおり、贈与税に関するルールや制度を有効に活用することにより、ある程度は贈与税の負担を緩和しう得ることが分かります。
とはいえ、承継が予定されている会社の業績が好調で「価値が高い」ものとなればなるほど、
それに応じて贈与税や最終的に掛かる相続税の負担の問題は大きくなり、
前述のような方法だけでは緩和しきれないことも予想されます。
また、仮に贈与税の負担という問題自体は無事に解決できたとしても、以前にお伝えしたとおり、
他の相続人との関係、特に遺留分との兼ね合いは全く別問題として残るということに留意する必要があります。
そこで、次回以降においては、これらの問題をも解決していくための方策として、
いわゆる事業承継税制の内容についてお話していきたいと思います。