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弁護士法人アルファ総合法律事務所

事業承継~親族内承継④~事業承継に絡む税制(2)事業承継税制

2021年05月21日

事業承継~親族内承継④~事業承継に絡む税制(2)事業承継税制

 

 

皆様こんにちは

弁護士法人アルファ総合法律事務所の代表弁護士・税理士の保坂光彦です。

今回は事業承継税制に関するお話です。

 

事業承継税制とは、一言でいえば、事業承継に際しての納税を猶予する制度のことであり、一定の要件を満たす形で

経営者から後継者に株式を引き継ぐことにより、それに伴う相続税・贈与税の支払いを遅らせる(さらに、経営を続けて

一定の要件を満たすことにより、実質的に免除される形にする)ことができるというものになります。

 

前回、贈与税に関する一般的な制度説明の中で、会社に相応の価値がある場合には、やはり贈与税や相続税の負担を

考えざるを得ないというお話をしましたが、この事業承継税制を活用することにより、事実上、相続税・贈与税の負担なく

次世代への事業承継が可能となるわけですので、適用の可否について、少なくとも検討してみない手はないと言えます。

 

ちなみに、事業承継税制自体は、平成21年度の税制改正時に既にスタートしておりましたが、使い勝手の良い制度とは

言い難いものであり、実際制度の利用も国が考えるほど伸びなかったことから、平成30年度の税制改正により、

期限付きの「特例」という形でより利用しやすい制度が導入されています。

具体的に、どのように変わったかといいますと、主として以下のような点になります。

 

<改正ポイント1>

まず、当初の制度では、相続税猶予の対象が発行済み株式の3分の2まで、相続税の猶予割合が最大80%と

制限されていたため、実際に猶予されるのは最大でも約53%(3分の2×10分の8)となっていましたが、

新制度ではこの制限がなくなり、100%の納税猶予が可能となっています。

また、当初の制度では基本的に一人の経営者からの一人の後継者への贈与・相続のみが対象とされており、

複数の後継者を設定することや、経営者以外の株主から贈与する場合の適用は出来ないものされていましたが、

新制度ではそのような除外はせず、柔軟な形での株式移譲が可能となっています。

 

<改正ポイント2>

さらに、当初の制度では事業承継税制適用後には、雇用者数が5年間平均で8割を切ることが基本的に一切許容されず、

仮に条件未達となってしまいますと、それまで猶予されていた税額に利息を付けて納付しなければならなくなる・・・

というリスクがありましたが、新制度では仮に未達となっても、一定の条件を満たせば、納税猶予の継続を受けられるよう

リスクが緩和されています。

 

<改正ポイント3>

同様に、承継後の業績悪化によりM&Aや解散した場合、当初の制度では原則として(倒産に至ったような場合を除き)

納税猶予が全て打ち切りとなる扱いでしたが、新制度では売却時の株価等をもとに再計算したうえで差額は免除される

(通常、業績悪化により株価は相当低下しているので、その低下後の株価を基礎に算定された税額だけ納税すれば足りる)

という形でリスクを軽減する仕組みが導入されています。

 

このように、新制度は当初の制度と比較して、使い勝手の良いものとなっていますが、注意すべき点としては、先程述べたとおり、

あくまで期限付きの特例であるということです。

具体的には、事業承継は令和9年12月までに実際に行われなければならず、

さらに、実施に先立って令和5年3月中に「特例承継計画」を提出しておく必要がありますので、現在事業承継をお考えの場合には、

できるだけ早めに準備を開始していくことが望まれます。

 

参考までに、当初の制度と特に変更されていない部分も含めて、事業承継税制が適用されるために

必要となる主な要件を見ていきたいと思います。

 

1 会社について

まず、最初に確認するべき事項は、承継予定の会社が法律上の「中小企業」に該当するかどうかという点です

(もしも、ここで対象外となりますと、他の要件を検討するまでもなく、事業承継税制の適用はないということになってしまいます)。

具体的に、以下の要件を全て満たす場合に、制度上の「中小企業」とされます。

(1)非上場会社である

(2)資産管理会社でない(※特定の資産額や資産収入が、一定の基準を超えない)

(3)医療法人や風俗営業会社に該当しない

(4)資本金や従業員数に関して、以下の要件を満たしている

● 卸売業・・・資本金1億円以下、または従業員数100人以下

● 小売業・・・資本金5千万円以下、または従業員数50人以下

● サービス業・・・資本金5千万円以下、または従業員数100人以下

● 製造業、その他の業種・・・資本金3億円以下、または従業員数300人以下

 

また、手続的な要件として以下のようなルールも定められています。

(1)納税猶予の税額および利子税の額に見合う担保を、税務署に提供すること

(2)承継開始から8ヶ月以内に申請し、都道府県知事からの認定を受けること

(3)会社の状況について都道府県および税務署に対して報告を続けること

(4)一定の雇用確保要件を満たし続けること

 

2 後継者に関する要件

事業承継税制の適用を受けるためには、「後継者」が以下のような要件を満たしている必要があります。

(1)承継の翌日から5ヶ月を経過する時点で、会社の代表者であること

(2)一族で50%を超える議決権を保有していること

(3)一族の中で筆頭株主であること(特例の場合は上位3人まで)

なお、議決権や保有株式数は「相続時点・贈与時点」が基準日となります。

さらに、事業承継の手段が相続であるか贈与であるかによって、多少変わってくる要件もあります。

→ 贈与の場合 贈与時に20歳以上、役員就任から3年以上経過

 相続の場合 相続直前に会社の役員を務めていたこと(ただし、経営者が60歳未満で死亡した場合を除く)

 

3 (先代の)経営者に関する要件

事業承継税制の適用を受けるためには、「(先代の)経営者」が以下のような要件を満たしている必要があります。

(1)会社の代表権を有していたこと

(2)承継の直前に、一族で50%を超える議決権を保有していること

(3)承継の直前に、一族の中で筆頭株主であること(後継者は除く)

(4)(贈与の場合)贈与の時点で代表を退任すること

 

 

次回は、相続税対策と並んで重要なテーマとなる遺留分対策についてお話したいと思います。

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