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弁護士法人アルファ総合法律事務所

親族内承継(5)事業承継に絡む税制(3)~ 遺留分に関する特例 ~ 

2021年06月21日

親族内承継(5)事業承継に絡む税制(3)~ 遺留分に関する特例 ~


皆様こんにちは

弁護士法人アルファ総合法律事務所の代表弁護士・税理士の保坂光彦です。

 

前回「事業承継税制」についてお話しましたが、これ自体はあくまでも税金に関する問題を解消ないし緩和するものであり、

他の相続人との関係、特に「遺留分」の問題について解決するものとはなっておりません。

より具体的には、遺留分とは「相続の際に法律上最低限保証されている相続分(配偶者や子については法定相続分の2分の1)」

のことであり、このような権利が存在していることから、例えば、遺言あるいは生前贈与などで

「全ての財産を後継者である長男に承継させる」ことを計画したとしても、他の相続人から遺留分減殺請求権を

行使されることにより、承継したはずの財産のうち、最大半分に相当する分を取り戻されてしまう

(これにより、結果として株式の分散や経営に必要な資源の減少といった会社の存続を危うくさせてしまう)

不安があるということになります。

さらに「生前贈与」という形で予め株式を承継していた場合においては、

その資産の評価が、贈与を受けた時の時価ではなく相続開始時(相続人死亡時)を基準として行われることになっているため、

贈与時点ではそれほど高額ではなかったはずの評価額が、相続人が死亡するまでの間に大幅に跳ね上がってしまい、

この値上がり後の評価額を前提に遺留分の取り戻しがされてしまう(なまじ後継者が頑張って会社の業績を上昇させてしまったばかりに、

株価上昇→遺留分の増加という皮肉な結果を招く)というケースすら生じかねないという問題もあるのです。

 

このような事態を回避するための一つの方策として、遺留分に関する特例制度が存在していますので、

まずは、その概要をご紹介しておきたいと思います。

それが【除外合意】【固定合意】です。

出来る限り簡略化していいますと、

【除外合意】とは、生前贈与された株式の全部または一部について「遺留分の算定に加えないこと」

(その分については実質的に遺留分を事前に放棄するのと同等の効果となります)を決める合意のことであり、

【固定合意】とは、生前贈与された株式の全部または一部について「合意時における価格で遺留分を算定すること」

(少なくとも値上がり分は除外するので、後継者の努力分をそのまま後継者に帰属させることができる)

を決める合意となります。

 

この特例を用いるには、相続人全員の合意のほか、下記のような手続を経る必要があるため、

それなりにハードルが高いのも事実ですが、遺留分の問題やリスクが将来に持ち越されるという事態を回避し、

後継者に承継会社の経営に専念して貰う(会社を発展させる事によるリターンが基本的に全て自分のものとなるため、

モチベーションが上がる)ことを可能とするものと言えます。

 

(遺留分に関する特例の利用に必要な手続)

(1)相続人全員の同意を示す合意書を作成する。

(2)合意書が完成してから1ヶ月以内に経済産業大臣への確認申請を行う(特例を受けようとする時点で、3年以上事業継続した非上場企業であること)。

(3)大臣の確認が下りた後、1ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てをして、許可を受ける。

 

なお、上記のような特例とは別に、先般の相続法改正により、遺留分に関する基本ルール自体の変更もされており、

これらの点も今後の事業承継に影響を与えてくるものと思われますので、あわせてご紹介しておきます。

 

まず、改正前の相続法においては、遺留分減殺請求権が行使された場合(社屋として貸している不動産や株式等)は、

全て共有状態となってしまうというのが原則的な取り扱いであり、これが事業承継に支障となってしまう危険性もありましたが、

今後は全て「金銭債権」になるとされたため、少なくとも共有化によるリスクは回避できるようになりました。

 

また、遺留分の算定にあたって対象となる「生前贈与」について、

これまで特に期限というものはありませんでしたので、他の要件を満たす限り何十年前であっても対象となり得ました。

それに対し、改正相続法においては、相続開始より10年以上前の贈与については、原則として遺留分の対象にしない

(当事者双方が遺留分権利者に対して損害を加えることを知ってなされた場合に限り期間無制限)という形に変更されています。

 

この改正によって、出来るだけ早い段階から事業承継(株式等の承継)を開始することにより、

遺留分の問題を緩和ないし解消し得るという道筋も見えてきましたので、これらのことも十分に踏まえたうえで、

事業承継計画を策定していくことがより一層重要となってきます。

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