2021年07月21日
親族内承継(6)事業承継に絡む税制(4)株価の評価
皆様こんにちは。
弁護士法人アルファ総合法律事務所の代表弁護士・税理士の保坂光彦です。
これまで、事業承継問題に絡んで様々なトピックスをご紹介してきましたが、その中で
「仮に『売買』という形式をとっていても、その対価が著しく低額であった場合には、時価との差額を『贈与』したものと扱われてしまう」
ということをお話したかと思います。
実際、この点は実務上も重要なところとなりますので、今回は、この点に関してもう少しだけ踏み込んだご説明をしておきたいと思います。
まず、出発点となる基本ルール『みなし贈与課税』について見ていきます。
相続税法第7条を見ますと、(実際にはもう少し込み入った条文ですが)要するに「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に、
取引価額と「時価」との差額について「贈与を受けた」ものとみなす・・・ということが書かれています。
これはどういうことかと言いますと、本来、売買契約に基づく代金が支払われた場合、これは通常の意味での「贈与」でないことは
明らかであるため、それに対し「贈与税」が課せられる余地はないように思われるのですが、
例えば本来100の価値がある株式を20という低すぎる対価で売買が為された場合には、その差額の80については
「贈与」が為されたものとして扱われ、その結果、これに対する贈与税が課せられる・・・という趣旨になります。
もちろん、時価よりも1円でも安ければ自動的に差額が贈与扱いになるのではなく、「時価よりは安いが、著しく低いわけでもない」
という程度の価格設定であれば、このみなし贈与課税は適用されないことになる訳です。
では、どの程度時価との間に差が存在すると「著しく低い価格」と評価されてしまうのかと言いますと、
なんと、実は明確な規定は存在していないのです。
この点、所得税に関しても「著しく低い価額」での取引に課税する規定があるのですが
(こちらは株を売った側に『値上がり益に対する譲渡所得税』を課すための規定となります)、所得税法上において
「著しく低い価額」とは「時価の2分の1未満」である旨が明確に定められています。
しかし、あくまでこれは相続税法とは異なる所得税法上の話となりますので、「2分の1を下回らない限り大丈夫(贈与税も掛からない)」
とまでは断言することができないのです。
また、株式譲渡との関係で言いますと、例え一株当たりの差額自体はそれほどでもないと思われる場合であっても、
売買対象となる株の総数が多い場合には、トータルで生じる差額も大きくなり、それが社会通念上許容できない
(課税の公平を害する)レベルと判断されてしまいますと、その結果として課税の対象となってしまう・・というリスクも否定できません。
さらに、最も注意したいのが、ここで問題となる「時価」とは、買主側である個人が株式を取得した後の時点で、
会社の株主構成がどのように変化するか(買主が実質的な支配権を握る同族株主となるか、少数派である同族株主以外の株主となるか)
によって全く異なってくるという点です。
なぜなら、(今回は詳しい計算過程について触れませんが)実質的な経営支配権を有する者にとっての株式の価値=「時価」と、
少数派であり会社の実権を有さない株主にとっての価値とを比較すると、前者のほうが相当に大きくなると考えるの普通であり、
実際に、税法上の評価においてもそれが前提となるからです。
そのため、うっかり同族株主以外の株主にとっての「時価」を想定して取引価額を決定してしまいますと、
自分が取引後に「同族株主」となった場合、対象の株式の「時価」が高く評価される事になり、結果として、
より高い『時価』を前提に、それと比較して「著しく低い価額」による取得と扱われ、
高額な贈与税を課せられてしまうおそれがあるのです。
▼ご参考▼
ちなみに、『みなし贈与課税』を受けてしまった場合、その株式を将来譲渡するときの「取得費」
(これより高く売れれば譲渡所得税が掛かってきます)はどうなるのかといいますと、結論としては、
「譲渡の際の取引価額と贈与を受けたとみなされる額の合計額」、
すなわち、先ほどの例で言えば20+80=100という「時価」で取得したのと結果的に同じ扱いとなります。
(続く)