2021年09月17日
親族内承継(6)事業承継に絡む税制(5)~ 株価の評価(3)非上場株式評価を下げる~
皆様こんにちは。
弁護士法人アルファ総合法律事務所の代表弁護士・税理士の保坂光彦です。
さて、前回はできるだけ余計な税負担を回避するという観点から、株式の譲渡ないし贈与に先立って、
会社の区分をより大きい側に寄せるための「調整」が重要になってくる場合も・・・という話をしましたが、
今回は、その点も含めて「評価を下げる」ための方策について、もう少し掘り下げてみたいと思います。
●はじめに
まず、前回簡単に触れるだけに留まっておりました「会社の区分」の判定基準についてですが、基本的には、
以下のとおり【総資産価額】と【従業員数】、さらに【取引金額】の3つの定量的な基準により判断されることになります。
なお、具体的な基準となる数値自体は【卸売業】【小売・サービス業】【その他の事業】のそれぞれで異なっていますが、
今回は大枠での感覚を掴んでいただく事が目的となりますので、参考として「その他の事業」に関する基準を挙げておきます。
【総資産価額と従業員数】 【取引金額】
大会社
15億円以上かつ35人超 15億円以上
中会社
(大) 5億円以上かつ35人超 4億円以上~15億円未満
(中) 2.5億円以上かつ20人超 2億円以上~ 4億円未満
(小) 5000万円以上かつ5人超 8000万円以上~2億円未満
小会社
5000万円未満又は5人以下 8000万円未満
*従業員数が70名以上の場合は、自動的に「大会社」に区分されます
最終的には、二つのうち大きい方の区分で判断されますので、いずれかの区分でより上の基準を超える形にできないか
試みることになります。いずれの数値も直ちに大きく動かすことが容易とは言いがたいですが、あと少しというところであれば
検討してみる価値もあるかと思われます。
極端な例ですと、例えば現状で従業員数が69名ということであれば、あと1名従業員が増えることにより、
他の数値がどれだけ低い区分相当であったとしても「大会社」になります。
では、より大きい会社区分となることで、実際にどんなメリットがあるのかといいますと、前回お伝えしたとおり、
株価を評価する際には、会社規模に応じて類似業種比準株価と純資産株価を併用する形で計算されることになるのですが、
その際、会社規模が大会社に近づくほどに類似業種比準株価の割合が大きくなります。
そして、現実問題として、計算上、純資産株価が類似業種株価を上回る場合が多いため、結果として、会社規模を大きくして
類似業種株価の割合を大きくすることにより、全体として株価評価を低くすることができるということに繋がるのです。
具体的には、大会社であれば類似業種比準を100%取り入れることができ、中会社(大)であれば90%、中会社(中)で75%、
中会社(小)で60%、小会社は50%の割合で(なお、小会社は純資産価格方式が基本ですが、選択により
類似業種比準の併用をすることができるとされています。)類似業種比準を取り入れることができます。
ところで、この会社の区分を変えるという方法以外にも、「評価を下げる」ための方法は存在します。
まず、類似業種比準が使える(特殊な会社ではない)場合を前提にしていますが、類似業種比準では、
「自社と類似する公開企業」の株価を参照する方式となり、①自社の配当金、②利益金額、③簿価純資産価額
も考慮することになりますので、これらの値が低ければ低いほど、当然株価の評価も下がることとなります。
よって、
①配当金引き下げ、あるいは配当を行わない(なお、記念配当、特別配当といった経常的ではない配当は含まれないとされています)
②役員退職金の支払いや含み損のある土地を売却するなどして、「利益」を減らす
③不良資産の売却や貸し倒れ処理など進める事により簿価で評価されていた「資産」を減少させる
・・・といった方策により、株価評価の引き下げが可能となります。
次に、逆に一部でも純資産価格方式が使われれる場合の話となりますが、こちらは
①(相続税評価額による)純資産の評価と、②発行済み株式数が主たる要素となりますので、例えば①(評価上の)含み損を生じる資産を購入したり、
大型の設備投資をするなどにより資産全体の評価額を下げる、②社員持株会を組成し、第三者割当増資を行うなど、全体の株式数を増やすことにより
一株あたりの評価額を下げるといった方法が考えられます。
それら以外にも、会社の中で高業績を上げている部門を分社化するなどして切り離すといった手法(類似業種比準方式においては、
子会社株式自体の評価は評価対象外であり影響を受けない)も考えられますが、こちらはやや難易度の高い話となり、
また、「評価を下げる」ためだけに実行するのが相当かどうかという問題も出てきてしまうところですので、
この点は、またどこか別の機会とさせていただればと思います。
(つづく)