2021年12月20日
会社組織いろいろ~各論(2)~合名合資会社
皆様こんにちは
弁護士法人アルファ総合法律事務所の代表弁護士・税理士の保坂光彦です。
前回は、会社の代表格ともいえる株式会社についてご紹介し、その中で、株式会社が「所有と経営の分離」「間接有限責任」という
原則に基づいていることによる、さまざまな規制が存在していることをお話しました。
今度は、ある意味ではその対極に位置するとも言える「合名会社」「合資会社」についてお話していきたいと思います。
合名会社という会社形態に関しては、あるいは「そのような名称すら耳にしたことがない・・・。」という方も
いらっしゃるかもしれません。
実際、合名会社は、設立数自体が非常に少なく、その類似形態である合資会社とあわせてもなお、
全法人数の1%程度にしかならないのですから、その名前が知られていないとしても何ら不思議ではありません
(次回以降にご説明する予定の「合同会社」の設立が可能となって以降は、ますますその傾向が強くなっており、
合名会社は、その存在自体がかなりレアなもになっているといえます。)。
その最たる理由は、おそらく合名会社の出資者=社員(株式会社では「株主」)に対し、極めて重い責任、すなわち「無限責任」が
課されていることを敬遠する故ではないかと思われます。
この点は、株式会社の株主には、仮に会社が倒産したとしても、自分の出資した分がゼロとなってしまうという以外に、
債権者などに対し特段の責任や負担を負わなくとも良いという「間接有限責任」が採用されていることとの比較で、
非常に大きな相違点といえます(合名会社の出資者=社員は、会社の債権者から直接請求を受けることになりますし、
その範囲も基本的には青天井ということになってしまいます。)。
その一方で、出資者=社員は「無限責任」という重い責任を負う以上、会社の運営全般に携わることができて当然
という話になりますので、原則として全ての出資者=社員が代表権や業務執行権を持つことになります。
また、合名会社は非常に自由な運営が認められており、株式会社のような配当に関する財源規制や決算公告義務もなく
(そもそも資本金という概念もありません。)、さらに、会社組織に関しても、定款で定めることにより極めて柔軟な設計が許されています
(例えば、株式会社であれば必須となる「株主総会」に当たる存在ですら、最初から不要としておくことも可能となっています。)。
これらは要するに、合名会社とは出資者=社員が無限責任を負うという形となっており、
仮に出資者=社員が杜撰な会社運営をしたり、会社財産を流出させたりしたとしても、結局、
出資者=社員が無限責任を負うことになる以上、敢えて制限をするまでもないという考え方の顕れとなります。
このように、合名会社は、一人でこれを設立した場面を想定すると、実質的に個人事業と一緒ということすら言えるのですが、
一つ大きく異なる点としては、複数の(無限責任)社員によって法人を形成することができるという点が挙げられます。
そして、前述のように出資者=社員の考え方が、良くも悪くも会社の運営にそのまま反映されていきますので、
そのような立場の譲渡に関しては、他の社員全員の承諾が必要ということになります(また、仮に社員の立場を
譲渡してその会社から離れたとしても、一定の範囲での責任は負うものとされています。)。
では、ここで、合名会社の類似形態である「合資会社」についてもあわせて見ていきたいと思います。
「合資会社」とは、簡単に言えば「無限責任を負う出資者」の他に「間接責任を負う出資者」も併存する会社ということになります
(よって、その他の会社形態と異なり、一人会社不可とされている、すなわち出資者が必ず2名以上必要となる点に特徴があります。)。
無限責任社員の法的な立場に関しては、基本的に前述の合名会社における場合と同様となりますが、有限責任社員は、その名のとおり、
責任の範囲が出資した価格の範囲に限定されることになります。
ただし、同じ有限責任といっても、株式会社や合同会社とは異なり、債権者から直接請求を受けることがあり得る立場となります。
これはどういうことかと言いますと、例えば出資額300万円の有限責任社員が既に200万円の出資をしているときは、
残りの未出資分100万円については会社債権者から直接の請求を受ける立場にあるということです。
ちなみに、かつては合資会社の無限責任社員は経営の全般に携われる無限責任社員に対し、有限責任社員は
業務に携わることはできない(監視権のみ)という趣旨の規定がありましたが、会社法施行後においては、
そのような規定もなくなりましたので、原則として全社員が業務執行権を有する(ただし、定款により業務執行をする
社員としない社員に分けることも可能)ということになっています。
また、この点と関連して、無限責任社員と同様、業務を執行する有限責任社員も他の全社員(ここでは全ての有限責任社員も
含む)の承諾が必要とされる一方、業務を執行しない有限責任社員については、
業務を執行する社員だけの承諾で足りるという差異が生じています。
いかがでしたでしょうか。
合名会社・合資会社にも一定のメリットはあるものの、相応のデメリットや負担の存在も否定できず、
それが結果として設立数の少なさにも顕れているのものと思われます。
そこで、次回では、会社法施行に際して新たに認められた会社形態である「合同会社」についてご紹介していきたいと思います。